少子高齢化や新型コロナウイルスの影響により、日本の医療・看護のあり方は大きく変わりつつあります。これからの社会で看護職に求められるスキルや、看護職をめざす学生が意識するべきこととは何なのでしょうか。またそういった変革期の中、2023年に開設を予定する大阪成蹊大学 看護学部(※1)の学びについて、星野教授(※2)に伺いました。
※1令和4年10月27日(木)付で文部科学省より設置認可されました。(11月9日追記)
※2令和5年4月より大阪成蹊大学副学長・看護学部長。(4月10日追記)
少子高齢化に伴う医療システムの変化
近年高齢者人口の急速な増加により医療・介護のニーズの増大が予想される日本では、従来の「病気を持つ人の療養の場=病院」という仕組みが変わりつつあります。最近は手術で入院しても1、2週間で退院となることがほとんどですが、中には入院によって筋力が低下したり食生活が変わったり、もっと医療的なケアが必要な状態で自宅に戻ってくる場合もあります。そうなると、退院後に本人やご家族が在宅で何に気を付けて暮らせばよいのかのアドバイスや、日々のサポートをするための人と仕組みが必要になります。
こうした退院後のケアに限らず、病院への入院・通院に頼りすぎる体制から抜け出して、高齢者や病気を抱えて暮らす方々が「住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられること」が重要である、という考え方のもとに、様々なシステムの整備が進んでいます。これは、人々の生活の質をより良いものにすることにも繋がる取り組みなのです。
「地域包括ケアシステム」と「多職種連携」
ここで覚えていただきたいのが、「地域包括ケアシステム」と「多職種連携」という2つの言葉です。厚生労働省では2025年を目途に、それぞれの地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体となって確保される体制を構築することをめざしており、これが「地域包括ケアシステム」と呼ばれているものです。ここでいう「地域」とは、約30分以内に必要なサービスが提供される中学校区くらいの生活圏域を想定します。その中で病院の医師や看護師、自治体の保健師、訪問看護ステーションの看護師、介護福祉士、ケアマネージャー、薬剤師、管理栄養士など、様々な職種のスタッフが情報共有しながら互いに連携し、患者の状況に対応した医療やサポートを提供します。これを「多職種連携」と呼びます。最近で言うと、新型コロナウイルスに感染して在宅療養をしている方の自宅に医師や看護師が訪問する様子や、保健師が感染の対応にあたる様子をテレビで見た方もいると思います。コロナ禍はまさに多職種連携の重要性を改めて実感する機会だったと言えます。
こうした背景から、看護職の活躍の場や求められる能力も多様化しています。病院で働く看護師も、地域全体の暮らしを意識し、病棟に入院している患者さんだけではなく在宅で療養されている方、今現在健康である方やその家族も含めて、広い視野で見ることが求められつつあるのです。
時代のニーズに応え、変化する看護教育
社会における看護ニーズの変化に合わせ、看護教育も変容しています。2020年10月に「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」および「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」が一部改正され、2022年度入学生から改正カリキュラムが適用予定です。たとえば「在宅看護論」という科目は「地域・在宅看護論」に名称変更され、看護の対象や療養の場の多様化に対応できるよう内容が見直されました。この点を踏まえても、2023年という時期に新たにカリキュラムを作り、看護学部を開設できるのは良いタイミングだと感じます。
大阪成蹊大学 看護学部が重視する学び
大阪成蹊大学看護学部ではこういった時代のニーズに応え、これからの日本の看護の現場で求められる人材を育成する学びを展開します。
生活者一人ひとりの課題について考える「地域健康探索プログラム」
たとえば、本学オリジナルの「地域健康探索プログラム」では、4年間を通じて地域医療の核を担う看護職に必要な力を培います。1年次にフィールドワークを通じて近隣地域の医療の現状や、そこで暮らす様々な世代の健康課題について、実際に目で見て肌で触れて考察します。普段自分が暮らしている地域であっても、そこでお年寄りから子どもまで様々なライフステージの方がどのような環境で暮らしているかを意識することはあまりないかもしれません。そこを呼び起こして掘り下げることがねらいです。
2年次以降もそうした地域の探索・調査を行いながら実習に取り組むことで、4年生になる頃には、生活者一人ひとりの課題に応える看護について、自分なりの答えを見つけられるように学びます。大阪成蹊大学はアクティブラーニングが徹底されていますから、グループワークやプレゼンテーションも活発に行いながら探求を深めてもらいたいと考えています。
地域包括ケアシステムは看護を学ぶ上でのアドバンス編として扱われがちですが、大阪成蹊大学看護学部では、看護の知識や技術を学ぶどのステージにおいても「人」や「地域」への理解を深めながら学ぶことを重視します。
どこで働くとしても、地域に目を向けられる視野と豊かな人間性を身につけてほしい
看護職をめざす学生・生徒の方の中には、今回お伝えした地域包括ケアシステムや多職種連携についてまだイメージしにくい方も多いのではないかと思いますので、これからその重要性を伝えていくのが我々看護教員の役目です。
将来、病院の看護師になるにしても、訪問看護師になるにしても、保健師になるにしても、病院など特定の場所を訪れる人だけでなく地域全体の暮らしを見据えながら目の前の仕事に取り組むこと、加えてあらゆる職種の人々の専門性を理解し協働できる視野を持つこと、そのための素養を備えた看護職を育成したいと思っています。
もちろん卒業していきなり地域包括ケアシステムの枠組みの中で一人の看護職として機能していくのは難しいでしょう。しかし将来的にそうなるためには、学生のうちから幅広い知識と視野、豊かな人間性と倫理観を養っておくことが重要です。
看護の仕事は大変なことも多いですが、様々な人の人生に身を重ねて並んで歩くことのできる、非常に面白くやりがいのある仕事です。「人の役に立ちたい」「社会の役に立ちたい」「病気や障がいを持って暮らす人の助けになりたい」という想いを、ぜひ一生ものの仕事に繋げてほしいと思います。
【関連リンク】
◆看護学部特設サイト
https://univ.osaka-seikei.jp/lp/nursing/
◆看護学部紹介
https://univ.osaka-seikei.jp/department/nursing/
◆星野 明子教授 教員紹介
https://univ.osaka-seikei.jp/department/nursing/teacher/220