未知のウイルスの出現やかつてない高齢化社会が進む中で、日々かわりゆく看護へのニーズ。
技術・知識・協働などニーズの幅が広がる一方で、今も昔も変わらず看護師に求められるものといえば"患者に寄り添う"力。
人とかかわる仕事として必要なものとは?また、大切にしているものとは?
「人と寄り添う看護」をテーマに、現場を知る3人の教員にお話しを伺いました
『"人だからできること"を大切に。人間力が大きく要求される。』
阿部真幸 講師
看護師をめざしたきっかけ、看護教員になったきっかけを教えてください。
高校時代、進路について悩んでいた頃に阪神淡路大震災が発生。このような緊急時に人の役に立てる看護学と地学に興味を持ったのですが、迷いに迷って最初は地学の道へ進みました。地震については理科でも未だに解明されていないことが多いと聞き、自分が研究することで社会に貢献出来るのではと考えたからです。
ところが大学を卒業し、大学院の博士前期課程で地震の研究に取り組んでいた頃に身近な人が突如入院。そんな時、患者本人だけではなく家族にも親身になって寄り添ってくれる看護師の皆さんに感銘を受け、やはり看護の道に進もうと決心しました。
翌年度には看護大学に再入学し、そこで現在もお世話になっている恩師に出会いました。
学部卒業後は病院で看護師として集中治療室や手術室などで勤務。信頼しそして今も目標にする師長や主任から身をもって「寄り添う看護」を教わり、仲間や後輩にも恵まれ、周術期の看護を極めたい、より良い看護のためにも後輩を育てることに携わりたいと考えるようになりました。
また、臨床では壮年期、老年期の方と接する機会が多かったのですが、その中である事が気になるようになりました。大きな手術をしたり、リハビリ中の目の前の患者さんの訴えでよく出会う「痛い」や「気持ち悪い」などの直接病気・ケガにかかわる症状のほか、「だるい」「しんどい」という訴えを聞くことが非常に多かったのです。
後輩を育てる「教育」、ケガとは直接関係のない不定愁訴の「研究」。大学教員ならその両方を叶えられると思い教員の道を選びました。
現在は地域で暮らす高齢者のQOL(=Quality of life 生活の質)に関する研究にも取り組み、近隣や地方での調査も現在まで継続しておこなっています。
専門領域について教えてください。
現在は老年看護学と周術期看護に軸を置き研究活動をおこなっています。
老年看護学とは、老年期から高齢期に対して看護支援をおこなう看護学の領域で、超高齢社会の現在の日本での役割も大きい分野といえます。最近は病院や施設中心の生活支援から、慣れた地域・家で生活をしていくための支援(=地域包括ケアシステム)の必要性が高まっており、本学でも老年看護学を研究する教員と地域・在宅看護学を研究する教員たちが協働して教育・研究しています。
その中で私は、特に地域で生活する高齢者のQOLの向上や、高齢者を支援する人の支援に関する研究にも取り組んでいます。
また、周術期看護の領域でも研究活動を続けています。こちらは様々な疾患により手術を受け、心身共に影響を受ける人・家族の看護に関する分野です。私は臨床時代からのライフワークとして、手術を受けた方のQOLを左右する状態に関して、自律神経活動の視点で定量化できないかに取り組んでいます。
▲計測に使用している機器と一緒に
先生にとって「寄り添う看護」とはどのようなものでしょうか。
人生の集大成である老年期は、対象者のこれまで、そして今の生活背景に大きく左右される分野で、その支援のためには、単なる寄り添う姿勢だけでなく看護以外の様々な知識が要求される大変さもあります。
しかし同時に、関わらせて寄り添わせていただくこと人生の先輩方から頂ける豊かな知識、見方、考え方、叡智は、自らの人生も豊かにしてくれるものでもあります。
また、弱っている状況でも、老年期の患者さんの人生経験に裏打ちされた「強さ」を垣間見れたり、その人の人生観に触れる瞬間も沢山あり、患者さんから学ばせていただいく場面は沢山あります。人と接する中で自分も豊かになれるのは、「寄り添う看護」の醍醐味だと思います。
一方で、周術期看護は病者に寄り添う看護の基本とも言える分野です。危機的な状況で対象者が抱えるつらさやしんどさなどを解決に向かえるようにするには、人だから出来ることを大切に、寄り添って質の高い看護を提供できるかが大きいと思います。
例えば、患者さんからナースコールが入った時に「どうされましたか?」と声掛けするより「すぐに行きますね」と返したり。患者さんが話をすることもしんどい状況の場合、後者のように言ってもらえると安心しますよね。これは人だから出来ることです。周術期は看護支援を通して対象者のその後の人生も左右する、奥深さがあります。
どちらの領域においても、「寄り添う看護」のためには、大阪成蹊大学の教育理念として大切にしている「人間力」が大きく要求されると思います。
『一人ひとりととにかく向きあう。それが第一歩。』
貞永千佳生 講師
看護師をめざしたきっかけ、看護教員になったきっかけを教えてください。
ありがちな話ですが、子どものころに看護師に寄り添ってもらった経験から自然と看護師を志すようになり、特に意識することもなく看護の道へ進んでいました。
卒業後は、看護師として病院で内科病棟や外科系集中治療室で勤務。看護師を続けて15年ほど経ったときに自分の今後を考える節目が訪れ、「このまま臨床で看護師を続けるか、研究の道に進むか」を考えるようになりました。悩みましたが、大学院に進学して勉強や研究に取り組んでいた身近なひとの影響から大学院に進学することにしました。
実は当時、現場で看護師として働いている中で臨地実習の学生を指導することもあり、学生指導のやりがいを感じる機会が多くあったんです。大学院卒業後に臨床に戻るという選択肢もあったのですが、看護師の仕事しながら学生への指導をするよりも、教員になった方が学生とゆっくり関わることができるという思いから、卒業後は看護教員として教壇に立ち、現在に至ります。
専門領域について教えてください。
大阪成蹊大学では、臨床の経験を活かして成人看護学(急性)を担当しています。
成人看護学(急性)とは、急激な健康状態の変化により生命の危機的状態にある、または手術療法を受ける患者さんや家族が危機的状態を乗り越え、心身への侵襲から回復し、生活の再構築、セルフケア能力を発揮できるように援助する看護学の領域です。臨床時代、外科系の集中治療室で勤務する期間が長かったので、そこでの経験が活きていると感じています。
また、学生への教育・指導をしながら、シミュレーションをもちいた周術期看護実践の教授法について研究しています。
できるだけ臨床に近いかたち、つまり実習で遭遇しやすい実際の患者の状況を想定して、シミュレーターなどのツールも活用しながら場面を設定します。学生達はそれを観察しながらアセスメントし、必要な看護援助を実践して、振り返りをします。そのとき、私たち教員がどうすれば効果的に看護援助に必要な知識・技術を教授できるのか、日々考察を深めています。
先生にとって「寄り添う看護」とはどのようなものでしょうか。
周術期の患者さんは、当然ながら命の危険と隣り合わせの状態の方も多いですし、精神的にも強い負担を抱えており、現場は緊張感が常にあります。
もちろん、それを受け止める看護師にとっても大変ハードな環境です。患者さんに今何が起こっているかを判断して、的確な看護をおこなうためには、身体に生じた症状を見落とさないよう細やかに観察する必要もありますし、あれも、これもという多重の課題に対応しながら、状況によって瞬時の判断も求められます。
例えば出血している等の症状を見落としては命の危険につながりかねません。そのため身体を看れる力は非常に重要なのです。また、手術後の患者さんは精神的に不安定になりがちですので、心理面のケアにも気を配らなければなりません。術後の病院での生活や体験が、その人のその後の人生を大きく左右することもあるからです。
一人ひとりの患者さんの状態をよく観察し、必要な時に必要な看護をおこなうこと。身体だけ見るのではなく心理面も、心理面だけでなく身体も見ること。心身ともにケアをすること。そのために、一人ひとりととにかく向き合うことが「寄り添う看護」の第一歩であると考えています。
『"伝える"ことが大事。自分も対象者と同じ地域に住む一員であるという目線で。』
石川信仁 講師
看護師をめざしたきっかけ、看護教員になったきっかけを教えてください。
看護師の仕事に関心を持ったのは、恩師からの薦めがきっかけでした。
最初は人と多くかかわる仕事を選ぶつもりは無かったのですが、看護師を薦めてくれたその恩師から「人と深く話し、コミュニケーションを取る仕事」の良さを説かれたこと、今後の高齢化の進展に伴い高齢者施設が増えてくる中で老人ホームなど様々な場所で看護師が求められるようになること、また手に職をつけたいという気持ちもあり、看護師の道へ進みました。
看護師として精神科病院に6年間従事していた時、退院指導をする延長上として「地域」で支える看護職である保健師の仕事に出会い、自分のめざす看護の形に近いと感じました。当時男性は保健師免許を取得できなかったのですが、法改正により男性も取得できるようなったので保健師をめざしました。
その後看護師・保健師として経験を積み上げていく中で、「自分の看護活動を研究的な手法を使ってまとめ、より多くの人に伝えたい」、「これまでの自分の活動を振り返りたい」と思ったことをきっかけに、大学院に進学しました。
看護活動は、現状判断をして今後どうするべきか予後予測をしながら援助を考えるのですが、この「看護過程を展開する」なかで、対象者の情報を収集し、情報を整理・分析・評価するアセスメントする力、看護課題の明確化や目標設定というプロセスを言語化し、対象者やチーム・多職種に伝える力をつけることが大事であると認識しました。
また、看護の現場では単に経験を人に共有するだけではなく、やっていることは同じでも「何故これをするのか」を理解することも重要です。そうして大学院で研究を続けているうちに、看護を学問として学ぶことが必要と感じ、私の経験を活かして伝えられたらと思い、教育の道へと進みました。
教育歴は、2015年京都府立医科大学医学部看護学科がスタートです。当初は老年看護学領域で助教でした。その後、2020年から京都先端科学大学にて公衆衛生看護学領域で助教を経て、2022年から大阪成蹊大学です。
専門領域について教えてください。
保健師としての経験を活かし、公衆衛生看護学領域を専門としています。
とりわけ家族や特定集団で構成されている地域全体を視野に置き、各々のセルフケア能力の向上、家族、地域の力量を高めるようなコミュニティケアをめざしているところが特徴です。
特定の疾患をもつ患者さんを対象とするだけではなく、いま健康な人も含めた地域に住むすべての人々の健康のため、地域に住むすべての人々の生活の営みを捉え、その営みに即した効果的な支援活動を見出し展開していくことを目的としています。
実例としては、研究の一環で星野副学長が立ち上げをされた「古川町商店街すこやかサロン」の運営に参加した時、最初は「町の保健室」として週に1回の健康相談からはじまりましたが、徐々に子どもが遊びに来られる場所としても人が集まり、交流が生まれ、人々の交流の場となりました。このように「健康」という側面からの街づくりや街の活性化に貢献できたかと思います。
先生にとって「寄り添う看護」とはどのようなものでしょうか。
看護というのは、その人が持つ生命力を最大限に発揮してもらうことにあると思います。
地域では個別支援だけでなく地域全体の支援をおこなうため、今は健康で、支援を求めていない人も援助の対象となります。ただ、社会生活を豊かにしていくためには、その人が求めている・求めていないに関わらず援助を考えていくため、時には相手が要求しないことや嫌なことを提示することもあると思います。
「寄り添う」という視点で見ると、自分も対象者と同じく地域に住む一員として考え、健康のためにはどういうことが必要なのかを説明して理解してもらい、アプローチすることが重要ですし、そのためには、素直さや、人の話を聞く姿勢が大切だと思います。
大阪成蹊大学看護学部の開講科目である「地域健康探索論」では、そこに住む人の生活像を理解することを目的として、発達段階にあわせて健康を考えていきます。
3名の講師から看護師をめざす高校生へのメッセージ
【阿部真幸 講師】
「看護は生活に身近な分野ですが、奥深く、大変だけど達成感・やりがいもある、楽しく魅力ある分野です。
一方で学問としては説明しきれていない事象が多く、研究のしがいもあります。大阪成蹊大学の他の学部同様、将来性、発展性ある分野です。仕事としても、看護のフィールドは病院、施設だけでなく地域や在宅、行政、教育機関や企業など非常に広く、対象のライフステージも様々であり、選択肢がたくさんあることも魅力と思います。必ずあなたに合った、生きがいにできる場所があります。
人の役に立ちたい、人と関わるのが好きという方にはもちろん、人の生活を詳しく考えたいという方にもお勧めです。ぜひ新進気鋭の大阪成蹊大学で看護を学んでみませんか。」
>>阿部真幸 講師の研究業績はこちら
【貞永千佳生 講師】
「さまざまなことに興味・関心をもってください。
おや?何かへん?何かいつもとちがうな?と。探求心をもってください。
わからなことはそのままにしないでちょっと調べてみてください。
そして、いろんなことを一歩の勇気でやってみると、あらたな景色がみえますよ。」
>>貞永千佳生 講師の研究業績はこちら
【石川信仁 講師】
「生まれてきてくれてありがとう!それだけであなたは十分に価値がある人です。
そんなあなたが看護に興味や関心を持ってくれたこと、素晴らしいです!社会貢献を職業としてできるのが看護だと思います。
そして、看護の問いは、その時々の最適解を求めることにあり、当事者と一緒にみんなでより良い方法を考え、探求し続けるところが魅力です。本学で看護職を一緒に目指しませんか?」
>>石川信仁 講師の研究業績はこちら
<参考リンク>
大阪成蹊大学 看護学部 特設サイト
>>https://univ.osaka-seikei.jp/lp/nursing/
大阪成蹊大学 看護学部 学部紹介
>>https://univ.osaka-seikei.jp/department/nursing/