私は20数年来、生理学・細胞情報学の研究・教育に携わってきました。生理学・細胞情報学というと何か解り難いかと思いますが、生理学は人間が生きている理(ことわり)を学ぶ学問、すなわち、正常な人間の体の機能を調べる学問です。また、細胞情報学とは外界からの刺激に対して細胞は反応を起こしますが、その情報伝達がどの様に行われるのかを調べる学問です。この分野の研究で非常に面白く感じたことは、何も反応していない細胞でも常に、刺激を伝えるシグナルを生成すると同時にそのシグナルを消去していることです。シグナルの生成が強くなる或いはシグナルの消去が弱くなると情報が伝わり、細胞の反応が起こります。このように一見何もしていないように見える細胞でも常に外界からの情報に対して応答するために活発な代謝を行っているのです。非常に無駄なことのように思えるかもしれませんが、何か変化があればすばやく反応するための準備状態を維持しているのです。
皆さんが大学に入学されて、時に何をやっても成果が出ないと感じることがあるかもしれませんが、それは無駄なことではなく、これから起こる変化に対応するための準備期間かもしれません。あせらず、着実に努力することによりさらに一歩前進できることと思います。