昨今のコロナ禍の影響を大きく受けながらも、2023年に入り復調を見せる観光業界。そこで喫緊の課題となっているのが、優秀な人材の確保です。観光の中でも特に就職先として学生から根強い人気を誇る航空業界で働く魅力とは?そしてグローバルに活躍するために必要な能力とは何か?
37年間、航空業界に身を置き、2023年4月に大阪成蹊大学国際観光学部の教授に就任した辛川教授にお話を伺いました。
航空業界への就職を決めた理由を教えてください。
祖父が鉄道マンだったため運輸の仕事にはもともと関心があり、鉄道も含め、運輸全般を就職先として考えました。運輸の中でも航空業界は、成長性もあるし国際性もある。運輸全般の社会貢献性、公共性に加えて、成長性と国際性がある点を考えて、航空業界を第一志望にしました。
と言っても、私が就職活動をしていた当時、日本国内の航空会社は全日本空輸(以下、ANA)、日本航空、東亜国内航空の3社のみ。採用の合格率もとても低かったので、そもそも受かるとは考えてもみなかったんです。現実的に受かる可能性が高い企業も受けつつ、万が一引っかかれば、という記念受験的な感じでANAを受けたところ、採用されました。
どのような業務に携わってこられましたか?エピソードも含め、教えてください。
航空業界というと、パイロットのイメージを持たれがちですが、実際にはたくさんの仕事があります。空港のグランドスタッフもいれば、営業も必要ですし、コールセンターもあるし、当然、一般企業のように経理や人事もあります。 私の場合は営業から始まり、空港のグランドスタッフ、路線と支店の開設など、専門職以外の業務はほとんど経験したと言えると思います。
営業に配属になった当時は、国際線といえば日本航空で、ANAは国際線が飛び始めて間もない頃でした。極端な話をすれば、日本航空は全世界に路線を持っていて、しかも毎日運航している。それと比べてANAは、成田からワシントンD.C.に週3便、成田からロサンゼルスに週5便だけ。それこそ知名度もないし、路線数も圧倒的に少ない。営業に行ってもあまり相手にしてもらえなくて、とても苦労したのを覚えています。 それから、同じ営業の中でも「レベニューマネジメント」といって、例えば、繁忙期にどれぐらいの座席をどういった価格帯のお客様に提供するかという、予約販売のコントロールをするセクションに異動になりました。
難しかったのが、座席数と価格帯の調整よりも、実際の需要と機材をどうマッチさせるかということ。機材には、大きな飛行機もあれば小さな飛行機もあります。本当はこの路線のこの時間帯には座席数の多い大きな飛行機を飛ばしたいけれど、その次に就航する地点との関係で小さな飛行機にするしかないというように、全体のオペレーションと座席の需要をマッチさせるのが特に難しかったです。
その後、伊丹空港でグランドスタッフとしての業務をひと通り経験し、それから空港現場をサポートするセクションに異動。関西国際空港の立ち上げ支援にも携わりました。
ところが、その数ヶ月後に阪神・淡路大震災が発生。関西国際空港は影響が少なかったのですが、伊丹空港が大変なことになりました。飛行機は飛んでいましたが、新幹線が止まっていたので、今では信じられないことですが、伊丹と岡山や伊丹と広島など、短い区間にも飛行機を飛ばしてほしいという要望があったんです。その新しい路線も、あまりにも急に決まったので、運航前日の深夜まで運賃が決まっていない、なんてこともありました。 空港にはお客様があふれ返っていましたが、社員も罹災して出勤できない、あるいは出勤しても家がないから住む場所を手配しないといけないといった状況。私も早朝から深夜までずっと働きづめで、新幹線が復旧するまでの2~3ヶ月ぐらいは大変でした。
キャリアの中で一番印象に残っている出来事は何ですか?
シカゴの路線と支店の開設に携わったことです。 まずは、私が一人で現地へ行って、ホテルを仮オフィスにしてスタートしました。さすがに一人で全部はできないので、アメリカの他の支店からヘルプしてくれる人を出してもらい、社員面接をして従業員を雇ったり、路線開設に向けて政府と交渉したり営業活動を行ったり。私はそれほど英語も得意じゃなかったので本当に苦労しました。 じつは、その5年前までANAにはシカゴ路線があったのですが、アメリカで同時多発テロ事件があり、アメリカ全体の路線の需要が減ったため、一旦、シカゴ路線を閉じたんです。それをもう一度立ち上げるということだったので、お客様のところに行っても、どうせまた都合が悪くなったらいなくなるのだろうなどと言われたりもして、むしろ普通の立ち上げよりも大変でした。半年ちょっとかかりましたが、ついに飛行機がシカゴに飛んできたときは、感無量でしたね。チームワークがいかに大切かを身をもって感じました。
航空業界で働く魅力を教えてください。
やはり、社会や人に貢献できるということが一番大きな魅力だと思います。 例えば空港のグランドスタッフは、お客様に叱られることもありますが、反対にお客様をサポートしたときにとても喜んでいただけることもあります。また、新たな路線を開設することは、2つの地点の人の流れや動きを作ることなので、社会的にも貢献度が高い仕事になります。 基本的に飛行機は一人では飛ばせませんし、座席を売るにしても一人では完結できません。組織の中でもチームで動きますし、組織と組織との関係も含めてチームで動くことばかりです。そんなふうにチームが一丸となってお客様のために動くのも、航空業界で働く醍醐味の一つかもしれません。 働いているときは、その時々に目の前にある仕事をやり遂げるので精一杯だったのですが、あとから振り返ってみると、多くの人に喜んでもらえることがやりがいだったんだと感じています。
航空業界をめざす学生が身につけておくべきことは?
まず絶対に必要なのは、「コミュニケーション能力」です。 先ほど言ったように、飛行機は一人では飛ばせないので、コミュニケーション能力はマストです。仕事をするチーム内でもそうですし、お客様に対しても必要なものになります。 コミュニケーション能力を身につけるためには、なるべく人と関わる機会を増やすこと。ただ、友達や家族と関わるだけだと、自分にとって心地よい人としか付き合わないもの。だから、部活でもバイトでも、何でもいいので、心地よい人とだけじゃない関係づくりができるところへ行くと、コミュニケーション能力が鍛えられると思います。 おそらく社会人として独立するまでは、自分が世界の中心でいられると思うんです。でも、自分が中心じゃないところで、自分の存在感や存在価値を相手に認めてもらうには、どんなことを心がければ良いのかということも考えてみてほしいと思います。
次に、「責任感」と「継続力」。 どんな仕事でもそうかもしれませんが、特に飛行機は安全に直結する乗り物なので、責任感があることは非常に大事なことです。 学生と社会人とで一番大きなギャップがあるのは、責任感と何かをコツコツと継続する力だと感じています。仕事とは継続していくものですし、決められたことを決められた期限でやるという責任感を伴うことですから、この2つは社会人になるまでに身につけておいてほしいですね。どういった人材が社会で活躍していて、社会人として最低限どんなことが求められるのかというのをずっと見てきたからこそ、大学生と社会人とのギャップはよくわかっています。学生に社会に出る覚悟や大人としての自覚を促すということをやっていくのも私の役目だと思っています。
もう一つ欠かせないのが「語学力」です。 国内の観光はインバウンドをどれだけ増やせるかが鍵になるでしょうし、もちろん海外で働くにしても語学力は絶対に必要となります。そのうちAIで翻訳ができる時代になるかもしれませんが、コミュニケーションはそれだけでは成り立ちません。 国際観光学部では、1年次の選べる短期留学で今の語学力を知り、自分のめざす業界で到達すべき目標を見つけることができるので、大いに活用してほしいですね。留学でも何でもそうですが、それをきっかけに、本人が何を学ぶかという目的意識が大事なので、そういったアドバイスもしていきたいと思っています。
学生の間に身につけておくと良いことはいろいろありますが、要は、大阪成蹊大学でも重視しているPBM(パーソナル・ブランド・マネジメント)をしておこうということ。個人のブランドを磨いて、それを組織のブランドにしようという考え方です。 一方で、航空業界や観光業界なら、「ホスピタリティ」も必要なのでは?と思われた方もいらっしゃると思います。ですが、私自身は、「ホスピタリティ」をわざわざ言葉として表現したり、身につけなくてはと思って行動したりするものではないと考えています。おもてなしや思いやりというものは、相手を思っていれば自然と出てくるものですし、普通に行動できてこそだと思うからです。
教授ご自身も、いま学生をされているとお聞きしました。
地域活性化や街づくりを学ぶために、大学院に通っています。学びながら、教えながらのリアル二刀流です。国際観光学部で教えるにあたって、実務の経験をただ伝えるだけでなく、観光というものを一度体系立てて勉強しようと思って学び始めたのですが無謀でしたね(笑)。でも、自らも学生となったことで、今教えている彼ら、彼女らの気持ちもよくわかるんです。みんな出身高校も違えばやりたいことも違うし、留学生もいるので年齢や国籍もバラバラ。だからこそ、一人ひとりをちゃんと見て、それぞれのキャパシティに合わせてインプットをしていきたいと考えています。
最後に、国際的に活躍することをめざす学生にメッセージをお願いします!
コロナ禍が明けてインバウンドは戻ってきていますし、万博もあるので、特に関西はこれから観光が伸びていくと思います。それに伴って、観光業界の人材がますます求められていくのは間違いありません。 将来、国際的に活躍したいと考える皆さんにお伝えしたいのは、「何にでも興味を持ってほしい」ということです。 よく「あの人は情報を持っている」なんて言いますが、別にその人が特殊なネットワークを持っているというわけではありません。同じようにテレビを見たり、人と話したりしても、吸収しているものが違うんだと思うんです。いろんなことに関心を持ったり、何かと何かを紐づけて考えたり、そうして考えたことを自分の頭の中に入れておく。それがつまり「情報収集力」と呼ばれるもので、そういった情報を集める手段を学生の間に身につけておくと良いと思います。ただし、インターネットの情報だけを集めても、考え続ける力、いわゆる「思考の持久力」が身につかないので、おすすめなのは本を読むこと。読書を習慣化することは、社会人に必要なコツコツ続けていく力の一つにもなると思います。
それから、日本人同士はもちろん、ましてや海外では人と人は違って当たり前。そういった自分と異なる文化や価値観を理解して受け入れるセンスを学生の皆さんには身につけてほしいですし、私たち教員もサポートできればと思っています。
▼辛川教授が教鞭をとられる国際観光学部をについてもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。
●3つのコースの学びがわかる特設サイト
https://univ.osaka-seikei.jp/lp/global_tourism/
●2度の留学で、4年間を駆け上がる留学プログラム
https://univ.osaka-seikei.jp/lp/global_tourism/education.html