OSAKA SEIKEI PRESS

データサイエンティストはデータ格差を埋める存在。
この仕事には社会的な課題を解決できる面白さがある

株式会社Hogetic Lab. 代表取締役CEO大竹 諒 氏

「データを制する企業がビジネスを制する」といわれる現代。株式会社Hogetic Lab.(ホゲティック・ラボ)の創業者にして代表を務める大竹 諒氏は、Collectro(コレクトロ)というデータ解析ツールをリリースし、ビジネスを軌道に乗せている若き経営者です。
「データの力で“経営”を再発明する」を起業理念に掲げ、社内ではデータサイエンティストをはじめ、データ活用のプロフェッショナル達を束ねる立場にある大竹氏に、起業に至るいきさつやデータサイエンスの重要性などについてお話をお聞きました。

IT系スタートアップ企業の創業者である大竹氏ですが、学生時代からこの道を目指していたのでしょうか?

もともと僕は起業なんてするタイプではなかったんです。どちらかというと自己肯定感は低いほうで、学生のころも「将来こうなりたい」「この職業に就きたい」という明確なビジョンはありませんでした。
東京の中高一貫校から京都大学医学部の保健系学科というちょっと変わったところへ進んだのも、「医工学系なら仕事はなくならないだろう」という消去法のような選択でした。しかも、大学生のときは学業以外しかしていなかったんです(笑)。ずっとアイスホッケーに熱中していました。


大学4年のときに医療機器の研究室に入り、血糖値を計る新しい機器の開発をしました。そのときですね、初めてちゃんとデータに触れることになったのは。
データを分析した上で研究結果をまとめたり、分かりやすい資料にしてプレゼンしたりするのが、とても楽しくて、「こういう好きなことで得意なことを仕事にしたら上手くいくのではないか」と思いました。
それで医療系の書籍を出している出版社の株式会社メディックメディアに入ったんです。

こちらの会社では編集者として参考書を作る傍ら、看護師国家試験の分析をレポートにまとめる仕事をしていました。試験の過去のデータを見て、「出題傾向や出題基準がこうだから次はこういうテーマの問題が出るんじゃないか」と予想する仕事ですね。まさに分析業務、アナリストの仕事で、その分析結果を看護学校に向けて展開するプロジェクトで成果を出しました。そこでデータ分析に面白みを感じ、それを年1回の試験向けではなく、もっとリアルタイムでどんどんやっていきたいという思いが強くなり、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)のデータアナリスト職に応募し、縁あって採用となりました。

DeNAはまさにIT企業大手で、スマートフォン用ゲームの開発・配信やSNS運営などを行っています。そこでの経験がターニングポイントになったのでしょうか?

そうですね。一緒にHogetic Lab.を立ち上げたメンバーとは、DeNAで出会いました。まず、入社すると、データサイエンティストとしての教育がきっちり行われます。僕がプログラミングを本格的にやり始めたのはこの頃なんです。前職の出版社では、データが全てExcelで管理され、一般的な回帰分析手法などもExcelで実行し、それでほとんど完結していましたが、DeNAに入って初めて本格的なデータベースを触るようになりました。

DeNAで主に取り組んでいたのはソーシャルゲームの分析です。プレイしたことがある人は分かると思いますが、例えば、オープンワールドを旅してアイテムを集めながらレベルを上げてモンスターと戦うというゲームだとしても、それは全て数値で管理されている世界。そこでどういうイベントをやったらどのアイテムをどれくらい購入してもらえるかということは全部、数字で分かるんです。そんなプレイヤーの傾向をデータで分析して事業の意思決定者であるプロデューサーやディレクターと毎日議論をしていました。DeNAは、徹底的にデータを基に意思決定する企業文化であり、その中で、自分としても結果を出していました。

そこからどうやってデータサイエンティスト、データアナリストが活躍する会社Hogetic Lab.を立ち上げることになったのでしょうか?

2019年ごろ、DeNAでは社員が副業をできるようになったんです。そこで、自分がこれまで培ってきた分析の経験がどこまで通用するのか知るためにDeNAでは取り扱わないデータの分析支援を始めました。
DeNAは、データベースがしっかりしていて非常に整った基盤があり、なんでもすぐ検証できる環境でしたが、実際に外部の会社様のデータを触れてみて、世の多くの企業はそうではないということを実感しました。そもそも、データの欠損やログの網羅性の低さなどビジネス現場のニーズに耐えうるデータになっていない。このような状況を目の当たりにして、日本においてデータ分析・環境の格差が広がり続けているという仮説を持つようになりました。
国際的な競争を考えても、データを基に柔軟に変化できないと戦えなくなってしまうわけですから、この格差は大きな社会課題ですよね。これを新しいシステムを開発することで解決できないかと考え始めました。

副業で少しずつ実績ができてくると、興味を持った周囲の友人のデータアナリスト・エンジニアが集まってきて、そのメンバーたちで議論する中で今の主力事業である「Collectro(コレクトロ)」のアルファ版を開発することになりました。
この事業を本気で伸ばしたいと思うようになり、起業そして資金調達をしてスタートアップとしての道を歩むことを決めました。

データサイエンティストに必要な資質はなんだと思われますか?

うちの会社には理系、情報系の学部を出た人も文系の人もいるので、難しいところですが、文系だとしても「数字に対して想像を重ねワクワクできる」というのは資質として持っていた方がいいと思います。
僕自身、なんらかのデータを見たときに「この数字の変動があるからには、裏でこういうことが起こっているんじゃないか」という仮説を立てるのが大好きなんですね(笑)。
それはほとんど妄想に近いのですが、数字の裏にはやはり消費者の行動などがあるものなので、数字から読み取れる何かをストーリーに変え、「では、その人たちがより良い体験ができるためには何をすべきなんだろう」と実社会の課題解決につなげていくのが、アナリストの仕事で一番面白いところですから。
逆にそこのストーリーテリングの要素は文系の方が強い印象があります。

やはり数学が得意でないと、データサイエンティストになるのは難しいのでしょうか?

僕もエンジニアではないので、開発したシステムとデータをベースにして分析をしているだけ。分析環境さえあれば、ある程度分析の仕事はできるとも言えます。
データサイエンティストの区分として、ビジネス領域が専門の「データアナリスト」、分析基盤が専門の「データエンジニア」、AI・情報科学領域が専門の「データサイエンティスト」の3つがメジャーなところですが、特にこの中でも狭義の「データサイエンティスト」に関しては数学・情報領域の専門性が必要になります。
そもそも、僕らの会社は「データ分析を全ての人に」というのがスローガン。
現在は、企業のデータ格差を埋めるべくビジネスを展開していますが、最終的にみんなが分析できるようになれば、僕たちは必要なくなるんです。それが究極のゴールだと思っています。
まだまだ時間はかかると思いますが、「データ分析はできて当たり前」という時代が来ると思っていますしそういう時代を作っていきたいと考えています。

データサイエンティストの仕事をするために、大学生のうちにやっておいた方がいいことはありますか?

プログラミングスキルビジネスでの課題解決能力。データを扱うプロとして働いていくにはその両方が必要です。
しかし、採用する側としては、両方とも中途半端だと困りますし、ビジネスで実践的にデータを取り扱うのは、学生時代には体験しづらいと思うので、まずはプログラミングスキルをしっかり磨いてくれればありがたいですね。
なので、大阪成蹊大学のデータサイエンス学部のように、1年時から専門的に学べるのはとてもいいと思います。

今、多くの企業では、在籍している社員をIT人材に職種転換させるためにリカレント教育(必要に応じて働きながら教育を受けること)を実施しているんですが、始めからそのスキルを持っていることは強いと思いますよ。

その上で、分析力を磨くための基本となるのは「ロジカルシンキング(論理的思考)」です。例えばクライアントに「これでどれくらい売れそうか」と聞かれたときに、機械的に過去のデータに照らし合わせて予測すると、あまり当たらない。そんなときは別の指標を見逃していたりするんです。まずはロジックで分解をしてそれぞれの要素を深掘りしながら答えを出せると、より正確な予想になるので、ロジカルシンキングは数学よりずっと大事。このロジカルシンキングの力を使い、徹底的に定義し続けることが重要な営みです。

ロジカルシンキングはどうやって鍛えればいいのでしょうか?

概念的な学習や机上の空論より、やはり実例を見ながら学んでいくのが一番早いですね。 例えば、会社に入ると「半年後の目標を立ててください」とよく言われます。そのとき多くの人が「半年後にこれができるようになる」と羅列して書くんですけど、「半年後の理想状況がどれくらいの地点なのか、そこに対して現在の自分はどれくらいなのか、そのギャップを埋めるために具体的にどういうことをするのか」と質問して深掘りすると、必然的にたくさんの言語化と定義をしなければいけなくなります。
どうしても、最初はそこまで具体的な行動を思い描けないまま書いてしまう場合が多いので、そういったところからトレーニングしてみてはどうでしょうか。

実はうちの会社でも、学習サービスとしてロジカルシンキングを教えていますが、仕上げとして教師役の社員と1対1で対話してもらっています。
そういった対人学習も必要だと思うので、大阪成蹊大学のデータサイエンス学部のように少人数教育で教員と会話しやすい環境は、とてもいいと思いますね。

データサイエンティストと働いていくためには、コミュニケーション能力も必須でしょうか?

うちの会社は現在、正社員が17名で業務委託が45人ほど。エンジニア、アナリストはもちろん、データ分析ができる営業(データビジネスデベロップメント)がいます。
僕も代表を務めつつ、営業やプレゼンを担っています。営業やクライアント対応には、もちろんコミュニケーション能力が必要ですが、それが苦手という人もNGなわけではありません。例えば、エンジニアとして活躍している人の中には、一人や少人数で専門性の高い仕事をする方が得意な人も多くいます。前提として仕事は楽しいものであるべきだし、それぞれの得意なこと・個性を生かせる環境になってきたと思いますね。

得意なことが生かせて平均年齢も若いスタートアップ企業の魅力を教えてください。

やはり少数精鋭のスタートアップ企業には、同質性の高いモチベーションの高いメンバーが集まるので、人間関係のストレスが比較的少ないと感じます。
弊社はクライアントにエンターテインメント企業が多いこともあり、エンタメ好きの人が多く、休みの日に僕も含め数人でガンプラ(アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズのロボットなどのプラモデル)を作ったりもしています(笑)。
今度、新卒で入ってくるメンバーは大企業にも行こうと思えば行けたのに、弊社で採用の面談をしたときに「この人たちと働きたい」と思ってくれたということで、今の大学生、高校生には安定志向より、そういった価値観を持っている人が多いかもしれませんね。

データサイエンティストを目指す高校生、大学生へメッセージをお願いします。

先ほども申し上げたように、この先、データ分析は「できて当たり前」になってくると思います。これから大学に入る、または就職する人は、そんな今後の共通言語となるデータサイエンスのスキルを身に付けつつ、そのベーススキルになんらかの専門性のかけ算をすることを目指してほしいです。
例えば、コアスキルとしてデータアナリティクスがあり、そこに営業という専門性を伸ばしていったり、経営企画という専門性を伸ばしたり、さまざまな方向性が存在します。スキルさえあれば、自分の興味のある領域にどこでも行けるのが、データを扱う職種の最大の強みなので、自分の得意な領域を見つけてほしいですね。
とにかく、いろんなことに好奇心を持って首を突っ込んでみてください。

<参考リンク>
hogeticlab. 企業サイト
https://hogetic-lab.com/product/

PROFILE

大竹 諒 ・ おおたけ りょう
株式会社Hogetic Lab. 代表取締役CEO

京都大学医学部卒業後、株式会社メディックメディアにおいて国家試験分析業務に従事したのち、株式会社ディー・エヌ・エーにデータアナリストとして入社。データドリブンでの事業運営から事業戦略立案、マーケティング領域のAIソリューション開発まで幅広く従事したのち分析組織のマネジメントを担う。2020年4月に、株式会社Hogetic Labを創業。